20年ぶりの再会。
兄との静かな30分。
唯一の肉親である実兄とは、20年前に喧嘩別れをして以来、一度も会っていなかった。
それでも、人生の終盤になって、二人はもう一度だけ向き合う時間を持つことになる。
「兄には知らせんでええ」その一点張りだった
53歳男性の唯一の肉親は、滋賀県の有名企業に勤める実兄だった。
しかし、20年前の喧嘩別れを境に連絡は途絶え、年賀状も電話も交わさないまま時が過ぎていた。
何度聞いても、返ってくるのは同じ言葉だった。
その言葉の奥には、後悔と恥ずかしさと、どこか子どものような意地が混ざっていた。
しかし、体調が落ち、呼吸が荒れる日が増えてきた頃、 「このまま本当に兄と会わずに最期を迎えさせていいのか」 という思いが胸を離れなかった。
そして、本人には言わず、私は兄に連絡した。
もし可能でしたら、一度会いにきていただけませんか。」
電話の向こうで静かに息をのむ音がした。
1月最後の日曜日。兄はやってきた
寮の小さな部屋に、20年ぶりに兄が入ってきた。
スーツ姿はきちんとしていて、仕事で鍛えられた落ち着きがあったが、
その目は赤く、どこか迷っているようだった。
男性は驚いたように声を漏らした。
その声は弱いのに、どこか子どものようだった。
二人は向かい合って座った。
でも、しばらくは言葉が出なかった。
会話と呼べるものは、それだけだった。
でも、必要な言葉はもう全部その中に入っていた。
二人はただ、30分間、同じ空間で静かに座っていた。
それは、20年間の空白が音もなく埋まっていくような時間だった。
兄が帰り際に私へ言った言葉
兄が立ち上がり、扉に向かう。 男性もゆっくりと体を起こし、見送る。
ドアの前で、兄は私に向き直った。
「お葬式は、私と岡本さん…株式会社心動の関係者の方だけで出します。」
「最後まで、よろしくお願いします。」
その言葉を言うとき、兄の声は震えていた。
部屋を出る直前、兄と男性は互いに目を合わせた。
その目に浮かんだ涙は、どちらが先だったのか分からない。
たとえ30分でも、ただ同じ空間に座ることが、 その人の人生を大きく救うことがある。
あの日の静かな部屋には、 過去の後悔も、愛情も、赦しも、すべてがそっと置かれていた。
WEB ART STORIES 編集室

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