初めてのデイサービス。
80代に囲まれた、50代の彼。
余命半年の五十三歳男性が、初めてデイサービスの玄関をくぐった日。
そこにいたのは、ほとんどが八十代の利用者たちだった。
「俺、ここにいてええんかな。」
その朝、送迎車の中はいつもより少し静かだった。
シートベルトを締めたまま、男性は窓の外をじっと見ていた。
「……まあ、ちょっと。俺だけ若すぎるでしょ。」
デイサービスの利用者は、八十代が中心。
車椅子の人も多い。
その中に、一人だけ五十三歳のがん末期。
「俺、ここにいてええんかな。」
男性はそれを、何度も飲み込んでいるように見えた。
玄関で見つめられる50代
玄関を開けると、いつものデイルームのざわめきが聞こえてきた。
テレビの音。新聞をめくる音。看護師の声。
そこへ、五十三歳の新入りが入っていく。
送迎スタッフと一緒に中へ進むと、
何人かの利用者が、じっと男性を見た。
「息子さんかな?」
男性は、小さく会釈をした。
その表情には、照れと戸惑いと、少しの居心地の悪さが混ざっていた。
自己紹介。「五十三です。」
朝の体操の前、スタッフが新しい利用者を紹介する時間がある。
その日は、男性の番だった。
「……ど、どうも。○○です。」
「おいくつですか?」と、誰かが聞いた。
部屋の空気が、少しだけ固まる。
一瞬、静かになった。
すぐに、どこかから笑い声が上がった。
「ええやん、若い男の人がおったら、賑やかになるわ。」
男性の肩から、すこし力が抜けたように見えた。
「若いから頼りにしてるで。」
体操が始まると、八十代の利用者たちはゆっくりと手足を動かす。
男性も、ぎこちない動きで腕を上げたり下ろしたりしていた。
その横で、一人の女性利用者がぽつりと言った。
男性は、思わず笑ってしまう。
「いや、俺の方が助けてもらう側なんですけどね。」
そう返すと、女性はケラケラ笑った。
年齢のイメージで引いた境界線が、少しだけ溶けた瞬間だった。
50代だけが知っている痛み
休憩時間、ソファに座っていると、
男性は少し苦しそうに胸を押さえた。
「大丈夫です。……ちょっと、疲れただけ。」
八十代の利用者たちの中にいると、
自分のしんどさを「若さ」でごまかしてしまいそうになる。
五十三歳。
働き盛りの年齢。
それでも彼の体は、八十代より早く終わりに向かっているかもしれない。
そう呟いた声には、悔しさと、少しの諦めがにじんでいた。
それでも、「ここにいていい場所」になっていく
昼食の時間。
配膳されたトレーを前に、男性は少し迷っていた。
隣の席の八十代の男性が、そう教えるように笑った。
それは、どちらが先輩で、どちらが後輩なのかわからなくなるような瞬間だった。
「せーの」で、みんなで「いただきます」を言う。
男性も、少し照れながら声を出した。
その違和感が、少しずつ「居場所」に変わっていく。
一日の最後、送迎車に乗り込む前。
男性はスタッフに小さく言った。
それは最大限の褒め言葉だったのかもしれない。
年齢のギャップは、最初は「違和感」としてのしかかる。
それでも、同じ空間でご飯を食べ、同じタイミングで笑う時間が増えていくと、
そこはいつの間にか「自分の一日」の一部になっていく。
WEB ART STORIES 編集室

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